大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1404号 判決 1994年2月25日

控訴人

京都コンピュータ学院洛北校こと長谷川亘

右訴訟代理人弁護士

猪野愈

被控訴人

谷口永里子

右訴訟代理人弁護士

三浦正毅

三野岳彦

崎間昌一郎

海藤壽夫

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由中の「第二事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一枚目裏一一行目の次に行を改めて、「本件は、昭和五七年四月控訴人に雇用された被控訴人が、控訴人に対し、雇用契約上の権利を有することの確認と平成二年一二月二九日以降の賃金の支払を請求するところ、これに対し、控訴人は、後記のとおり、懲戒解雇、又は整理解雇をした旨主張して、右請求を争っている事案である。」を付加する。

二  同二枚目裏三行目の「二八日」の次に「被控訴人に対し、」を付加し、同六行目の「解雇した。」を「解雇する旨の意思表示をした。」と改める。

三  同六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「5 控訴人は、平成五年三月二五日、被控訴人に対し、予備的に、人員削減の必要を理由に解雇する旨の意思表示をした。」

四  同七行目の「争点」を「主要な争点」と改め、同九行目の「否か。」の次に「また前記懲戒解雇は、不当労働行為に該当し無効であるか。」を付加する。

五  同九行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(控訴人の右争点についての主張)

1  被控訴人は、京都コンピュータ学院の職員として控訴人に雇用され、その採用条件は、身分が本学院職員で、一般事務と限定されておらず、国家試験第二種情報処理技術者試験に一年以内に合格することが約定され、右試験合格までは「職員採用内定研修生」の身分である。

2  しかるに、被控訴人は、その後毎年右試験を受けるも、合格しなかった。

3  右学院においては、学生数が減少し、将来急増を望むことが困難な状況にあるところから、雇用する職員の余剰対策として、余剰人員の雇用を存続させるため、また将来的に多角経営の一環として、昭和六三年四月一日、コンピューター関連事業を目指す一事業所としてPCセンターを設置し、そこに余剰人員を配属することにした。被控訴人外六名の者は学校職員として不適格者であると判断されたため右センターに配属された。右センターの構想は、パソコンによるデーター通信を主業務とすることにあり、そのため当座はブライダル産業の情報を売る事業を行い、発展して行くことに決定された。この構想を実現するには、右六名について、その適性と能力に応じて、コンピューター関連業務に向けての研修が必要であった。

4  そして、右研修のため、被控訴人は、平成元年一〇月一日から訴外株式会社日本電算機標準に出向したが、同社からその期限の同二年一〇月三一日をもって出向受入れを拒絶する旨の通告を受けた。そこで、控訴人は、その従業員の植原啓之を介して、右同日、被控訴人に対し、同日付けで解雇を予告し、予告期間の同年一一月一日から自宅で待機することを命じた。しかるに、被控訴人は右命令に違反して自宅待機をせず、不在であった。植原は、同年一〇月二九日、被控訴人から出向先を探すよう依頼を受けていたので、八社について当たり、そのうち二社が受け入れを承諾したので、被控訴人にその事を連絡すべく自宅に電話等をしたが、自宅待機の命令に違反して不在であったため、連絡不能の状態で、困り果てた。

5  同年一一月二七日、植原が被控訴人と会った際、被控訴人は出向に同意する意向であったので、控訴人は右同日植原を介し右解雇の予告を撤回した。ところが、被控訴人は同月二九日、控訴人に対し、出向期間終了後、被控訴人が京都コンピュータ学院の業務に就くことができる確約が得られなければ出向に応じない態度を示した。出向につき同意が得られない以上、剰員として控訴人に受け入れる余地がないので、控訴人としては経営上損失であっても研修を命じる以外に処置がない結果になった。そこで、控訴人は、被控訴人に対し、同年一二月三日植原を介し、また同月六日文書をもって、同年同月一〇日から同三年三月三一日まで京都工業株式会社での研修をするよう業務命令を発したが、被控訴人は、これに従わず、同月一八日、控訴人に対し、「研修に応ずるが、種々の疑義があり、納得いくものでない。」旨の文書を送付して来た。

そこで、控訴人は、同月二〇日最後通告として文書をもって、被控訴人に対し、右研修につくよう業務命令を発したが、被控訴人はこれに応じなかった。

したがって被控訴人は、同月三日から同月二一日までの間業務命令に従わず、無断欠勤したものである。

6  なお、同月二二日、被控訴人は突如百万遍校を訪問したので、控訴人の職員が被控訴人に対し、「貴方は無断欠勤を続けており、また業務命令に従わず、現在、貴方の処分について本校が検討中のため、自宅待機をしていなさい。二五日に連絡する。」と伝えた。そして、同月二五日、控訴人は、植原を介し、被控訴人を懲戒解雇にする予定で、被控訴人を呼び出したが、植原が外出先での業務で帰校が遅れたため右解雇ができず、被控訴人に対しその月分の給料を支払い、帰宅させた。

7  右の間、被控訴人は、電話で洛北校の校長に対し有給休暇の申請をしているが、右休暇申請につき時季変更権行使の判断をなし得るのは労務上の指揮監督権者である被控訴人の直属の上司の植原であって、右校長は右指揮監督権を有しないので、右休暇の申請は無効である。

8  以上の次第で、控訴人は、被控訴人に対し、研修に行くよう業務命令を発しているものであるから、被控訴人においてこれに従う意思があれば、自ら控訴人ないし植原に指示を仰いで就労すべきであり、その間、植原が被控訴人に対し何らの指示をしなかったと非難するのは、主客転倒の判断である。

9  被控訴人の前記4及び5の態度は、「業務命令拒否」に該当するのみならず、「勤務成績不良」にも該当する。そして、被控訴人は、どの学校からも引き取り手のない程の不良従業員であり、また一年以内に前記国家試験に合格することを条件に採用されたのに未だに右試験に合格せず、能力不足の勤務成績不良の最たる者である。

10  なお、被控訴人は、控訴人の前記懲戒解雇は不当労働行為である旨主張するが、これに当たらないことは明らかである。即ち、労働法に規定されている労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体であり、かかる団体の権利を擁護するために不当労働行為の制度が設けられているものである。しかるに、被控訴人が加入している京都コンピュータ学院労働組合は、企業から不良労働者、悪質労働者として排斥されて当然な労働者が自らの保身のためにのみ労働組合としての形態をとっている団体であるから、右組合の一員であると言う一事をもって他の一般従業員に比して特権的保護を与える筋合はないのである。したがって、控訴人の前記懲戒解雇を不当労働行為として無効とするのは失当である。

(被控訴人の前記争点についての主張)

1  被控訴人には、控訴人が主張するような就業規則に定める懲戒解雇事由に該当する行為等はなく、控訴人は、原審の判断を非難するが、その事実認定、法律判断は真に適切妥当であり、控訴人の主張は独自の見解に基づくものであるから、全く理由がない。

2  また、控訴人の懲戒解雇は、京都コンピュータ学院労働組合を嫌悪し、その組合員である被控訴人を不利益に取り扱って、理由もなく解雇したものであって、労働組合法七条一号に該当する明白な不当労働行為であるから、無効である。」

第三主要な争点に対する判断

一  本件の事実経過等は、次のとおり、付加、訂正するほかは、原判決三枚目表一行目の冒頭から同七枚目表三行目の終わりまでの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表一行目の「甲」の前に、「前記争いのない事実、」を付加し、同三行目の二八」を「二九、三三の一、二、四一ないし四三」と改め、同四行目の「各一、二」の次に「、五四、五五、六〇の一、七二の一、当審証人植原啓之、当審における被控訴人本人、弁論の全趣旨」を付加する。

2  同四行目の次に行を改めて、「1 被控訴人は、京都コンピュータ学院の卒業生として控訴人に前記のとおり雇用されたものであるが、その職種は事務職に限定されているものではなく、学校職員として採用され、一年内に国家試験第二種情報処理技術者試験に合格しなければ正職員として採用しない旨申し渡され、被控訴人もこれを承知していた。しかるに、被控訴人はその後何回となく右試験を受けたが、未だに合格していないものである。控訴人が経営する京都コンピュータ学院においては、右試験に合格しなければ、学生の指導の仕事は的確にできず、その他の職種(事務職)については人員数が限定されているため、被控訴人は右学院内においては余剰人員としてみなされる立場になっていた。」を付加する。

3  同五行目の「1」を「2」と、同行の「予測される」から同六行目の「必要があるとして、」を「その経営する学院(殊に主力校の洛北校)の生徒数が漸次減少し、将来その減少が見込まれるため、この対応及び余剰人員の受入れ対策として、関連六校の学校事務を集中して処理し、併せてブライダル産業の情報を売る等コンピュータ関連の収益事業をも行うことを企図して、」と、同七行目の「設置し、」を「設置(その責任者は植原啓之)し、余剰人員とみなされていた」と、それぞれ改め、同一一行目の「組合員である」の次に「(ただし、当時、控訴人は、右組合から組合員の名簿を渡されていなかったので、右六名のうち三名は組合員であることを知らなかった。)」を付加する。

4  同末行の「2」を「3」と改める。

5  同裏五行目の「3 原告は同年六月一〇日、」を「4右センターでの事業を軌道に乗せるためには、被控訴人が他の企業で研修を受けて、実力を付けて前記試験に合格することが望まれたので、控訴人は同年六月一〇日被控訴人に対し、」と、同七行目の「命じられた。」を「命じたところ、被控訴人はこれを了承し、右研修の機会を利用して右試験に合格しようと考えた。」と、それぞれ改め、同八行目の「一〇月、」の次に「被控訴人は右試験に合格しておらず、そのため控訴人において余剰人員である被控訴人を受け入れる職場はなかったので、」を付加する。

6  同四枚目表一行目の「応じた。」を「応じたが、当時、控訴人は、被控訴人を学院に迎えることは確約しなかった。」と、同二行目の「4」を「5」と、同七行目から同八行目にかけての「指示はなかった。」を「指示はなく、その間、右試験に合格するために試験勉強をするよう示唆され、被控訴人は一時これに務めた。しかし、やはり、被控訴人はその年の試験にも不合格になった。そして、右日本電算機標準においては、被控訴人に対する評価は極めて悪く、今後、右企業で被控訴人を使って行く考えは全くなかった。そこで、右会社は、右出向期限を延長しないことに決め、これを植原に伝えた。ところが、当時、控訴人においても、余剰人員である被控訴人を受け入れる職場はなかった。」と、同九行目の「5」を「6」と、それぞれ改める。

7  同裏四行目の「6」を「7」と改め、同五行目の「出勤し、」を「午前中だけ出頭し、」と改め、同六行目の「した。」の次に「しかし、その間、被控訴人は直属の上司である植原に会って右の指示を撤回する等の交渉は全くしなかった。」を付加し、同七行目の「7」を「8」と改める。

8  同五枚目表三行目の「8」を「9」と、同行の「同年」から同四行目の「依頼した。」までを「同年一一月一九日、洛北校の鈴木事務長に対し、同日の有給休暇を申請し、更に同月二〇日同校の校長の牧野に対し、同月一九日から二四日までの間の同休暇を申請した。しかし、当時同人らは被控訴人の直属上司ではなく、その直属上司は植原であった。」と、同五行目の「この連絡が」を「右申請は」と、同八行目の「9」を「10」と、同行の「被告は」を「植原は、先に被控訴人と面談した際、出向先が見つかれば被控訴人がこれに応ずる意向であるものと理解し、また同人のために何処か就労できる先を見つけようと腐心して、その後、八社に当たって、出向受入れを打診したところ、六社は拒否され、二社だけ受入れを承諾した。そこで、植原は、被控訴人の自宅にその事を連絡して交渉を持とうとしたが、被控訴人が自宅に待機していなかったため、右連絡ができず、困った。そこで、控訴人は植原を通じて、」とそれぞれ改める。

9  同裏五行目の「10」を「11」と、同一〇行目の「11」を「12」と、それぞれ改める。

10  同六枚目表一行目の「指示した。」を「指示したが、右業務命令に従わなくてもよいとの意思は表明していない。」と、同二行目の「12」を「13」と、それぞれ改め、同五行目の「指示した。」の次に「そして、控訴人は翌一一日付警告書をもって直ちに業務命令に従い勤務することを命じた。」を付加し、同六行目の「13」を「14」と、同末行の「14」を「15」と、それぞれ改める。

11  同裏一行目の「異議を止めて」を「今回の研修については種々の異議があり、納得いくものではない、今後の事(研修先での具体的な労働条件及び来年度以降の事について等)については、団体交渉等の場で早急に対応していただきたい旨の意見を付記して、」と改め、同四行目の「なかった。」の次に「しかし、控訴人から同月二〇日付文書でもって、被控訴人に対し、被控訴人の前記言動は、前記研修の業務命令を拒否するものであって、右要請の対応には応じられない旨の通知があった。」を付加し、同五行目の「15」を「16」と、同八行目の「16」を「17」と、同九行目の「あらためて」から同一〇行目の「連絡する」までを「貴方は無断欠勤を続けており、また業務命令に従わず、現在は貴方の処分について本校で検討中のため、自宅待機していなさい。二五日に連絡します。」と、同末行の「帰った。」の次に「当時、控訴人は右同日被控訴人を懲戒解雇する手筈を整えていたが、植原が別用で帰校することが遅れて被控訴人に会えなかったため、やむを得ず右措置が取れなかった。」を付加する。

12  同七枚目表一行目の「17」を「18」と改める。

二  右認定の事実によれば、被控訴人は、一年以内に国家試験第二種情報技術者試験に合格することを採用条件(もし右期間内に合格しなければ正職員にしない。)として控訴人に雇用されているところ、コンピューターの技術者を養成する学校を経営する控訴人としては右採用条件は必要な条件であるから、被控訴人はできるだけ速やかに右試験に合格すべきであったにもかかわらず、これを今日まで果しておらず、右期限が経過しても、当初の採用条件に相違して恩情的に正職員に登用されているものの、その後も一向に右試験に合格しないばかりか、近時生徒数が漸次減少して行くことが見込まれるために、控訴人においては、被控訴人を適切に処遇すべき職場がなく余剰人員として抱えざるを得ない実情にあったこと、しかるに、控訴人は、被控訴人に対し何とか職場を確保しようと、前記PCセンター構想を考案したり、出向先や研修先を見附けたりして、その労働力の適切な活用を図り、もし、これらを契機にして、被控訴人が一層努力して前記試験に合格すれば、控訴人が経営する学院の学生の指導者として迎え入れることを計画し、期待を掛けていたものであるが、被控訴人は、この期待に全く応えようとせず、ほとんど毎年受験はするものの不合格を繰り返し、出向先の評判も著しく悪く、自己のおかれた立場を反省せず、控訴人の気の長い恩情的配慮を全く理解しようとしていないことが推認できること、ところで、日本電算機標準での出向期限が切れた後に、控訴人はなお被控訴人に対し職場を確保しようと腐心して、前記のとおり数社に当たり、京都工業株式会社が引受けを承諾したので、同社において研修をなすべきであると考え、前記のとおり、被控訴人に対し研修の業務命令を発したものであるところ、被控訴人はこれを素直に受入れようとせず(なお、被控訴人は平成二年一二月一八日付けで控訴人宛研修に応じる旨の文書を送付してはいるが、これには、控訴人として受入れ難い前記要望事項が掲げられているばかりか、直ちに右研修に出る行動に及んではいないので、右文書の送付をもって、被控訴人が右研修の業務命令に従ったとは到底言えない。)、その後、前記のとおり度々控訴人から文書又は植原を介し口頭で、右業務命令に従うよう厳重に警告ないし指示があったにもかかわらず、これに応じず、右業務命令に指示された研修開始日を徒過して、前記懲戒解雇がなされた日まで右命令に従った就労をしなかったものであること、なお、その間、被控訴人は洛北校を訪問して、その関係者、又は植原から自宅待機するよう指示をされてはいるが、それは被控訴人が業務命令に従わなかったためやむを得ず指示したものであることが窺われ、その際、業務命令に違反している旨強く非難されているので、右自宅待機をもって控訴人が右業務命令を撤回したものとは言えず、その事は被控訴人においても充分理解し得たことが窺われること、しかして、被控訴人が右業務命令に違反したことは、同人が自己の置かれた前記立場の自覚を欠如し、控訴人の恩情的配慮に対する理解のなさが重要な事由になっているものと推認できるところであるから、被控訴人の右業務命令違反及びこれに伴う少なくとも平成二年一二月一二日から同月二二日までの間の無断欠勤は、労働者として重大な義務違反であり、「業務命令違反」及び「無断欠勤」の懲戒事由に該当すると認めるのが相当である。

被控訴人は、控訴人の前記懲戒解雇は不当労働行為に該当し無効である旨主張する。成程、前記認定の事実によれば、右解雇当時、被控訴人は京都コンピュータ学院労働組合の組合員であったものである。しかし、前記認定の本件の事実経過等を考慮すると、控訴人が右組合を嫌悪し、その団結権を侵害するために、被控訴人に対し前記解雇をなしたものと認めることは困難である。すると、被控訴人の右主張は採用できない。

三  してみれば、控訴人の被控訴人に対する平成二年一二月八日の前記懲戒解雇は有効であり、被控訴人は、これにより解雇され、控訴人に対し雇用契約上の権利を有しないというべきであるから、被控訴人の控訴人に対する各請求は理由がなく、棄却すべきである。

第四結論

よって、原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して、被控訴人の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮地英雄 裁判官 山﨑末記 裁判官 富田守勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例